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© 2026 Yuko Yamamoto.
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特別対談
2025年特別対談 山本幽香×ゲルマー・トモコ
技を超え、感性を書く― 生の実感を映す書のかたち
ゲルマー・トモコ(以下 ゲルマー):本日はお越しいただき誠にありがとうございます。日欧宮殿芸術協会のヨーロッパ支局長のゲルマーと申します。本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、先生の簡単な自己紹介からしていただいてもいいでしょうか。
山本幽香(以下 山本):書道をしております。山本幽香と申します。私は長い間、いわゆる教育書道の分野で活動してきました。正しく、美しく字を書くことを重視する書ですね。その価値は今も大切だと思っていますが、35歳のときに弦巻松陰先生に師事することを決めました。自分の中でマンネリを感じていて、何かを変えたいと思ったのがきっかけです。
ゲルマー:その「変えたい」と思われた感覚が、とても重要だったように感じます。長く続けてきたからこそ生まれる違和感ですね。
山本:先生からは、まず「骨格が正しく、しっかりとした字を書きなさい」と教えられました。小細工をせず、大胆に書くこと。行書も学びましたが、堅苦しいものではなく、一貫して堂々とした表現を求められました。
ゲルマー:堂々とした線、という言葉が、先生の作品を拝見しているととても腑に落ちます。
山本:ありがとうございます。私の住んでいるところから師匠のところまで2時間はかかってしまうんですが月に一回は必ず通いました。何度も厳しい指摘を受けましたが、ようやく新潟の県展に出品できるようになりました。十年ほど続けて師匠が稽古をつけるのを引退された後、お弟子さんに学びましたが、次第に師の教えを基盤にしながら自己流で書くようになりました。現在私が発表している作品は、全くオリジナルの発想から書体、書風で自分の形として出しているものです。
ゲルマー:十年という時間をかけて体に染み込ませたものが、今の自由な表現の土台になっているのですね。話は逸れてしまいますが、今日身につけていらっしゃるスカーフとこちらの作品の表装は同じ生地でしょうか。
山本:そうなんです。実は同じ生地を使っています。表具は作品に合うような古い着物地を使いました。表具屋さんに軸にしていただき、(こういう細かい仕事をしてくださる表具屋さんがまだ地元にはいます。)その残り布でスカーフにしました。
ゲルマー:やはりそうでしたか。とても素敵です。作品の装飾もこだわりを持ってしていらっしゃるってことが伝わってきます。海外では、書そのものだけでなく、表装まで含めて作品として見られることが多いんですよ。
山本:そうなんですね。
ゲルマー:今回の「輝」の作品もそうですが、以前、私たちの展覧会で発表していただいた「華厳の滝」も非常に印象的でした。あれは、実際に華厳の滝をご覧になった体験が、制作のきっかけになっているのですよね。
山本:そうです。書道は最初、きれいに書かなければならないと教わります。それはもちろん大切なことです。ただ、長年書き、教えていると、それだけで良いのだろうかと感じるようになりました。私が大切にしているのは「実感」なんです。
ゲルマー:実感、という言葉がとても印象的です。「華厳の滝」を拝見したとき、実際にその場に立ち、滝を前にしたときの感覚が、そのまま線になっているように感じました。海外で展示すると、もちろん多くの方は文字を読むことができません。しかしキャプションを読みながら、その意味や情景を想像して作品を見てくれます。それが書道の持つ大きな力だと感じています。
山本:そう言っていただけると嬉しいですね。
ゲルマー:「舞雪」の作品もそうですが、雪一つ取っても、地域や季節、気候によって全く違いますよね。海外の方々も「これはどんな雪なのだろう」と想像しながら作品を見ていました。
山本:私は雪が好きなんです。雪かきの話をしますと越後では雪は雪かきではなく雪掘りします。重い雪を掘って空地に移動したり、積み上げ、又は地下水に流して歩けるようにするのです。これは大変で嫌う人も多いですが、私はそういうことも含めて好きですね。実感があると、それを作品にしてみたくなります。ただ、書き始めてすぐのものの方が、良いと感じることが多いです。書いているうちに考えすぎるとなぜか良くならない。溜まっていた気持ちが、濁りなく出たときに「いい字が書けた」と思います。
ゲルマー:とてもよくわかります。私は日欧宮殿芸術協会の活動の他にもフルートを演奏しますが、頭が澄んでいるときほど演奏が自然になります。
山本:そういう時にこそ本質的な部分が出るのかもしれませんね。師の弦巻先生は、時折「人間性がだめだから字もだめなんだ」と言われました。当時は意味がわかりませんでしたが、今は少しずつ、その言葉の意味が理解できるようになってきた気がします。
ゲルマー:なるほど。少し違うかもしれませんが、私もフルートを教えていると、一人ひとり音が全く違うと感じます。人そのものが音に出る。その点では、先生のお師匠様のお言葉も、深く共感できます。
山本:音楽で言えば、書道とフォークソングはとても近い気がしているんです。日常の気持ちが歌になり、曲になる。それは書にも通じます。技術はもちろん必要ですが、それ以上に、日常をどう感じ、どう表現するかが大切だと思います。
ゲルマー:やはり、日々の生き方そのものが表現につながるのですね。実感から文字の真意まで書こうとするその姿勢が素晴らしいです。先生は感動する瞬間を、どう捉えるかが大切とおっしゃってくださいましたが。先生ご自身が、心を動かされる瞬間はどんなときでしょうか。
山本:特別なことではなく、日常から感動は生まれます。なので今は筆を持つより、庭で土をいじっている時間の方が長いかもしれません。花を育て、咲いて、やがて枯れていく。その過程を見ていると、命を扱っている感覚があります。きれいにするだけが目的ではなく、手をかけ、巡りを感じること。そういった喜びが、書を書く動機になっています。
ゲルマー:生活そのものが、制作の源になっているのですね。使う墨や筆についてのこだわりはありますか。
山本:昔はありましたが、今はあるものを使っています。
ゲルマー:海外では、炭や墨への関心も高まっています。書道だけでなく、絵画にも使われていますし、日本文化への関心も非常に高いです。9月の日欧宮殿芸術祭inパリでは八千人もの方が来場され、パリの方々は書への関心も高かったです。文字が読めないからこそ、自由に想像してくれるのだと思います。最後にお伺いしますが、今後はどのような活動を続けていきたいとお考えですか。
山本:これからも、そのときの気持ちを大切にして書いていきたいですね。技術の向上も必要ですが、それよりも感じたままを書くことを優先したい。完璧ではなくても、日本文化の「豊かさ」を伝えられたらと思います。古典だけが音楽ではなく、フォークソングも音楽であるように。形式にとらわれず、感性が伝わる書を書いていきたいです。
ゲルマー:とても楽しみにしています。先生の書が、これからどのように広がっていくのか、私自身も見届けていきたいと思います。
経歴
山本幽香 Yuko Yamamoto
1946年 新潟出身

