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Interview article /対談記事

2022年特別対談 菊池三奈×カトリン=スザンネ・シュミット

キャンバスに豊かな色彩が溢れる和洋折衷の美しき世界

カトリン=スザンネ・シュミット(以下 シュミット):こんにちは、独日協会ベルリン理事のカトリン=スザンネ・シュミットです。

菊池三奈(以下 菊池):初めまして。菊池三奈と申します。

シュミット:まずは先生について教えていただいてもよろしいでしょうか。どれくらいの期間、絵をやってこられましたか。

菊池:私は長い間美容の仕事をしていたので絵は退職後に始めました。33 年間仕事をして、5 店舗持ちました。現在はそれを終えて絵に専念しています。

シュミット:5店舗ですか、すごいですね。では絵を描く時間なんてなかったのではないですか。

菊池:趣味として描いてました。本格的に始めたのは仕事をやめてからですが、有名な画家の展覧会があれば必ず見に行ってました。仕事柄美的感覚を養うことはしていましたね。良いと思う絵、彫刻、ファッションを洋・和問わずに見てました。シュミットさんはこれまでどのようなことをなさってこられたのですか。

シュミット:私はベルリン大学で日本語学科を専攻しました。その後ベルリンの三和銀行で働き、辞めて以降は独日協会ベルリンで日独の文化をつなぐ仕事をしております。もうこの活動をして 20 年以上になりますね。私は文化交流で多くの芸術作品に出会いましたが、菊池先生の作品は非常に独創的ですよね。テーマは印象派の画家と似ているように感じますが、描き方は全く違います。これはアクリルでしょうか。

菊池:いいえ、これは油絵なんです。

シュミット:え、そうなんですか。本当に油絵ですか。すごく色が澄んでいて力強いです。

菊池:濁った色というのは好きではないんですね。なので色同士が混ざらないように工夫をしながら描きます。それとこの線は日本画で使われる線を用いています。 シュミット:なるほど、日本画と洋画の間にあるような菊池先生だけの絵ですね。先生は花をテーマにすることが多いですが、それ以外のモチーフを描きますか。菊池:花が中心ですが、始めた頃は他のモチーフも描いていました。今は花です。以前公募団体の展覧会に出品した時、花の表現を評価してくださった方がいらして、それからは自分の気持ちを花を通して伝えようと思うようになりました。

シュミット:実際にご自宅の咲いてる花を描くんですか。

菊池:そうです。このピンクの花は今ちょうど私の家の庭に咲いています。1 日で色が変わる花なんですよ。朝は白く咲いてだんだんピンクになり夕方にはすぼんで濃いピンクになります。私は切花を描くことがないので。毎日新しいお花が庭に咲くので、元気に咲く花たちを描いています。そしてそのいくつもの花を自由に組み合わせて作品にしていきます。

シュミット:なるほど。先生の頭の中で自由に構成をして作品を作っていくのですね。ドイツにも睡蓮はありますが見たことのない色の睡蓮もあります。

菊池:これは熱帯睡蓮です。家の近くの植物園には色々な色の熱帯睡蓮が咲いているので、良く見に行きます。青やピンク、黄色だったり、紫とかもあります。

シュミット:そうなんですね。それにしても先生の絵は、画面が豊かな色彩で溢れていて明るい気分になれます。

菊池:見た方がそう思ってくださるのは嬉しいです。何より私は描くことが好きなんですよ。本当に楽しく描いています。形は花そのもので色彩は自分の好きに描いてますの。

シュミット:こちらの作品はいつ頃描かれたものですか。

菊池:これは先月描いたもので、新作です。

シュミット:そうなんですね。今回の展覧会のためにご用意してくださったんですね。ありがとうございます。

菊池:今回は小さい作品ですが、50 号に描いたものや大きな作品を二つ並べて一つの作品としている作品もあります。

シュミット:一度見てみたいですね。是非とも作品と一緒に先生もドイツに来ていただきたいです。ちなみに先生はドイツに来られたことはありますか。

菊池:一度だけ行ったことがありますよ。何カ国か回るツアーに参加してその一つの国にドイツがありました。

シュミット:私も日本には 50 回以上来ていますが、北海道から沖縄まで本当に素晴らしいところばかりですよね。先生のお生まれは東京ですか。

菊池:実は私の生まれは樺太なんですよ。網元の子として生まれました。網元というのは漁業経営者のことです。その地域では一番大きいと言われていた網元でした。それで引き上げて日本に帰ってきました。なので小さい頃は海を見ながら過ごしたので大らかな性格になったのかもしれません。なので絵を描くときも小さくまとまるのはダメなんです。自分がおおらかだと感じられる絵が描けた時にいい絵が描けたと感じますね。

シュミット:なるほど、先生がおおらかな性格というのは作品を見ただけでわかります。仕事の経験も作品に生きているように感じますね。

菊池:そうですね。お客さんと話をしてどのような形に仕上げていくのかをイメージしていく必要がありましたので、職業柄自分を高めていくことが大切でした。よりいいものを見なければいいものができないという心持ちで日々いろんなものを見てきたつもりです。

シュミット:その努力をされたからこそ、お店を5店舗も運営することができたんでしょうね。特に海外に作品を届けることは素晴らしいです。先生の作品には何を感じ、どう表現したいかが明確に描かれているように思います。そのような作品を通して文化の交流を図ることは何よりも重要です。

菊池:そうですね。これからも自分が描きたいように描いて、見た方が少しでも明るい気持ちになっていただけたらいいですね。

シュミット:これからも先生の絵を期待しております。本日は貴重なお話をしていただきありがとうございました。

菊池:こちらこそありがとうございました。

2022 Special Talk Session: Mina Kikuchi and Katrin-Susanne Schmidt

A beautiful world of Japanese and Western blends that flood the canvas with rich colors.

Katrin-Susanne Schmidt: Hi, my name is Katrin- Susanne Schmidt, Director of the German- Japanese Society Berlin.

Mina Kikuchi: It’s nice to meet you. I’m Mina Kikuchi.

Schmidt: Let’s start by talking about you. How long have you been painting?

Kikuchi: I started painting after I retired from a long career as a beautician. I worked for 33 years and owned five locations. But I have closed them all down and now focus on painting.

Schmidt: Five locations? That’s impressive. So I’m guessing you had no time for your art.

Kikuchi: I used to draw as a hobby. I didn’t start painting seriously until after I quit my job, but I always went to see exhibitions of famous painters. I appreciated paintings, sculptures and fashions, both Japanese and foreign, that I thought were excellent. I was consciously trying to develop an aesthetic sense, as I thought it would benefit my work. How about you? What kind of career have you had?

Schmidt: I majored in Japanese at Humboldt University of Berlin, then went to work for Sanwa Bank in Berlin. I quit that and am now bridging Japanese and German culture through the German-Japanese Society Berlin. I’ve been doing that for more than 20 years now. I’ve seen a lot of artwork through my intercultural interactions, but your pieces are astonishingly creative. They seem thematically similar to the works of impressionists, but your style is completely different. Have you used acrylics here?

Kikuchi: No, it’s an oil painting.

Schmidt: Seriously? It’s really oil? It’s so powerful, with such clear colors.

Kikuchi: I don’t really like muddy colors. That’s why I take care to not let the colors mix. I also use lines typically used in Japanese paintings.

Schmidt: Interesting, you have a unique style somewhere in between the Japanese and Western styles. Flowers seem to be a common theme in your paintings. Do you ever use any other motifs?

Kikuchi: Flowers are my main motif, but I had others when I had first started painting. Now it’s flowers. I once submitted a piece for a public exhibition, and was complimented on my rendering of flowers. That made me decide to try to express my feelings through flowers.

Schmidt: Do you paint actual flowers at your house?

Kikuchi: Yes. This pink one is actually blooming at my house right now. These flowers are white when they bloom in the morning, gradually turning pink, and then shriveling to a deep pink in the evening.I don’t ever paint cut flowers. New flowers bloom at my house every day, and I paint the ones that break into full bloom. And I combine different ones together in the same painting.

Schmidt: Interesting. So you put them together in your head and then paint that picture. We have water lilies in Germany, too, but I’d never seen one of this color.

Kikuchi: This is a tropical water lily. There is a botanical garden near my house with all different colors of tropical water lilies, and I go there. There’s blue, pink, yellow, and even purple ones.

Schmidt: Wow. I’ve never seen that. The picture is overflowing with such rich color. It gives a warm feeling.

Kikuchi: I’m happy you get that from it. I really just love painting. It brings me such joy. The shape of the flowers is faithfully depicted, but the colours are chosen as I see fit.

Schmidt: When did you paint these ones?

Kikuchi: This one is new—I painted it last month.

Schmidt: I see. So you made it for the exhibition? Thank you very much.

Kikuchi: This is a small piece, but I have others like one I painted on a size 50 canvas and another I created by putting together two big pieces.

Schmidt: I’d like to see that some day. I would love for you to come to Germany with your art. By the way, have you ever been to Germany?

Kikuchi: Just once. It was just one country among many that I visited as part of a tour.

Schmidt: I’ve been to Japan more than 50 times now, from Hokkaido to Okinawa. And I’ve loved every place. Are you from Tokyo?

Kikuchi: Actually, I was born in Sakhalin. My father owned a fishing business. It was the largest such business in the area. But we gave that up and came back to Japan. I think I have this easygoing personality because I grew up looking out on the ocean so much. I think that’s also why I don’t paint anything small. To me, I’ve painted a good picture when I’ve painted one that feels easygoing.

Schmidt: You can tell from looking at your art that you have an easygoing way about you. Your experience as a beautician also comes through.

Kikuchi: Yes. My job involved talking with the customer and getting an image in my head of what they wanted, so I had to improve my skills for my work. I’ve tried to look at all different things all the time, because I feel that if I don’t look at better things I won’t be able to make better things.

Schmidt: It’s that effort that enabled you to manage five beauty salons. And that goes for your art, as well. That’s why you can make such unique paintings.And it’s remarkable that your art has made it overseas. Your art reflects a clear sense of what you are feeling and how you are trying to express that. Engaging in cultural exchange through art like this—that’s the most important thing.

Kikuchi: Yes. I hope to keep painting like this and bring even a little joy to those who look at them.

Schmidt: I’ll be looking forward to your future paintings. Thank you for sharing your valuable insights with me today.

Kikuchi: The pleasure was all mine.

 

 


2019年特別対談 菊池三奈×クラウス・メンツ・ザンダー

明るく華やかな花風景の向こうに輝く女流画家の美観

クラウス・メンツ・ザンダー(以下、ザンダー):菊池先生の作品は、ミュンヘンでの展覧会で拝見させていただきました。本日、こうして作者とお会いできて、とても光栄です。

菊池三奈(以下、菊池):こちらこそ、ありがとうございます。

ザンダー:今回は、新作を描いてくださったということで、感謝します。ぜひ作者の観点からご解説いただけないでしょうか?

菊池:そうですね、私は純粋にきれいな色が好きなので、澄んだ色が表現できるようにということは意識しています。色が濁ってくると嫌なんですよ。

ザンダー:色使いがとても華やかで楽しいですね。とても良い色合いです。赤、青、黄色の三元色に、紫、オレンジ。緑が映えて、非常に明るい絵になっていますね。黒が無いことも、効果的だと思います。

菊池:でも実は、一番下に下地として黒を使っているのですよ。さらに青や赤を塗り重ねて、下地を仕上げています。

ザンダー:それは失礼しました。こんなに明るい絵なのに、それを支えているのが黒というのは、面白いですね。構図もいいですね。白い花たちと色彩のカラフルな花たちで向かい合うような画面構成になっています。

菊池:この作品は『自己紹介、私はエンゼル、私へメロカリス』と言いまして、お花同士が自己紹介しているのです。

見てくださる方も、花と会話しながら見てくださったり、一緒に、見る方も絵と好きなように、自由に話しながら見てくださればいいなと、楽しんでくださればと思って描きました。

ザンダー:一つの絵として、とても上と下が対話をしていて、よくできています。本当に花同士が会話しているようです。3:2 の落ち着きある構図も素晴らしいと思います。

ところで菊池先生が、このように美しい絵を描き始めたのは、いつ頃からですか?

菊池:もともと私は別に仕事がありまして、かれこれ30年くらいはその本業に従事していました。その仕事から離れたことで、改めて絵に向き合い始めたのです。絵を描きたいという思いは、その以前にやっていた仕事の影響もありますね。お客様を美しくして差し上げる、いわゆるおしゃれに関する仕事だったものですから、色彩感覚などが養われたのだと思います。

ザンダー:私も同意見です。花という対象を描くと同時に、菊池先生ご自身の人生が表現されているのだと思います。そして、とても自由ですよね。綿密な計画の下に設計されたような感じが無く、その瞬間の感情が開放されているように見えます。

菊池:やはり自分自身が自由に描いているからだと思います。自分自身が楽しいから始めた絵ですから、これからも気持ちのままに楽しんで描いていきたいですね。

ザンダー:だからこそ、作品が輝いて見えるのだと思いますよ。

最後になりますが、ドイツでも作品が評価される菊池先生から見て、今後日本とドイツの交流がさらに発展していくために、何が必要と思われますか?

菊池:やはり、お互いがお互いをよく知り合うことではないでしょうか。それが一番ではないかと思います。

ザンダー:知り合うということは非常に大切だと、自分も思います。また近年は、国際的な芸術交流が盛んで、日本の芸術作品がドイツで公開される機会も少しずつ増え、菊池先生のように評価が高まっています。

お互いの国で双方の芸術作品が行き来することが、その大きな鍵になるのではないでしょうか。

それともう一つ。菊池先生にぜひおすすめしたい画家をご紹介させてください。エミール・ノルデというドイツの水彩画家なのですが、ナチス政権下で創作活動が制限されてしまい、1956 年には亡くなったのですが、その生涯のうちに多くの花の絵を描いています。ドイツ国内でも人気が高く、小さな作品でも高値で取引されています。菊池先生の描かれる風景と共鳴するものがあるかもしれませんので、よろしければ彼の作品をご覧になってください。

菊池:ありがとうございます。ぜひ見せて頂きます。

 

2019 Special Talk Session: Mina Kikuchi and Klaus Menz-Zander

The beauty of a female painter who shines in front of the bright and glorious scenery of flowers

Klaus Menz-Sander (hereinafter referred to as “Sander”): Ms. Kikuchi, I saw your work at an exhibition in Munich. So it’s a great honor that I’m able to meet the person who painted them today.

Mina Kikuchi (hereinafter referred to as “Kikuchi”): Thank you very much.

Sander: Thank you for the new piece you painted this time. Can you please explain it from the painter’s point of view?

Kikuchi: Well I genuinely like beautiful colors,so I made a conscious effort to paint with clear colors. I just hate it when colors become murky.

Sander : The color scheme is very flowery and fun. The hues are also very nice. Amidst the red, blue and yellow, which form the three primary colors, there’s also purple and orange.The green is captivating too, which makes the painting very bright. I think the absence of black is also effective.

Kikuchi: Actually, black was used in the foundation for the base of this painting. The black paint was also painted over with some blue and red paint to form this foundation.

Sander : Please excuse my mistake. It’s interesting that the color black is what’s upholding such a bright painting. The layout is good too. The white flowers and the colorful flowers are configured in a way where they’re facing each other.

Kikuchi :This painting is called“SelfIntroduction, ”and it portrays flowers introducing themselves to one another.

I painted this piece while hoping that the people who see it will talk to each individual flower, and will be able to enjoy themselves while freely talking to the painting as they’re viewing it together with other people.

Sander : In this single painting, you did a good job with portraying the strong interactions between the top and the bottom. It really looks like the flowers are talking to each other. I also think the calm 3: 2 layout is wonderful too.

By the way, when did you start painting beautiful paintings like this?

Kikuchi: Originally, I had a different job, which I did for about thirty years. After leaving that job, I started doing paintings again. My desire to paint beautiful paintings was also partially attributable to the job I had before.

My previous job involved making customers beautiful and was related to style as well. So it may be the case that things such as my sense of color was developed while I was doing that job.

Sander: I agree. I think that when you paint flowers, which are the objects of your painting,you’re also simultaneously depicting your own life. The painting’s also very free. It doesn’t feel like it was designed under careful planning.Instead, it just looks like a painting where you expressed the emotions you felt at the time.

Kikuchi: I think that’s because I was painting freely, of course. It’s a painting that I started painting out of enjoyment. So from now on, I’d like to continue enjoying myself while painting with my true feelings.

Sander: I think that’s why this painting appears as if it’s shining.

Lastly, from your perspective as someone whose work is well received even in Germany,what do you think is needed to further the exchange between Japan and Germany from now on?

Kikuchi: Gaining a good understanding of oneanother is necessary, of course. I think that’s the most important thing.

Sander: I think understanding each other is very crucial too. In recent years, there’s been many international exchanges of art, and the number of opportunities given for Japanese artworks to be exhibited in Germany has also been increasing gradually. Artworks like yours has been gaining good reviews as well. So perhaps having artworks from both sides be shared between the two countries is the major key to deepening the exchange.

There’s one more thing I want to add. I’d like to introduce you to an artist called Emil Norde. Emil Norde was a German watercolor painter who had his creative activities restricted under the Nazi administration. He eventually passed away in 1956, but during his lifetime, he painted many paintings of flowers. His works are very popular in Germany, and evens mall pieces of his  are traded at high prices. He might have some pieces that resonate with the sceneries you’ve painted as well, so please take a look at some of this works if you can.

Kikuchi: Thank you. I’ll definitely check them out.