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ストローとの出会いを経て覚醒した平和の芸術家

エリック・デュバリ(以下 デュバリ):初めまして。山形先生のお作品は、パリでも拝見していました。しかし山形先生の絵は、見れば見るほど不思議に思うことが増えていきますね。そのため、山形先生への興味も日に日に膨らんでしまっていたので、今日はぜひ色々とお話を伺いたいと思います。

山形信嗣(以下 山形):ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。

デュバリ:それではさっそく作品についてのお話なのですが、今回の絵はどのような意図で制作されたのでしょうか?

山形:この作品は、「心を結ぶストロー(=The Straw)」を始め、色々なストローの形をフランス国旗の自由・平等・博愛に当てはめて、パリオリンピックが開かれている今を描いたものです。青:白:赤の国旗が取り入れられているのは、そのためです。

デュバリ:確かにトリコロールカラーは、日本の日の丸と同じく、フランスの象徴です。それと、このストローにも何かメッセージを込められているのでしょうか?

山形:このストローは、私が絵を描き始めたきっかけであり、描き続けていく上での支えです。元々このストローは、私ではなく、木村喜久雄氏(元日本原子力研究所の方)が制作されたものなのですが、知り合いの3人で意匠特許を取得して、しばらくして、木村さんは亡くなられました。ストローは大量に生産されることなく、最初の数十本が作られただけで終わってしまいました。

デュバリ:木村さんのことはとても残念ですね。しかし、その後に製作を引き受ける方はいなかったのでしょうか?

山形:そうです。技術的に難しかったということもあるかもしれませんね。木村さんがあまりにも早く亡くなられたことが一番大きかったと思います。

デュバリ:特許が通ったばかりで、生産や販売についての見通しが進んでいなかったのかもしれませんね。ただ、引き継がれなかったことは、とても残念ですね。ところで山形先生の作品には、全てこの木村さんのストローが描かれているんですか?

山形:そうですね、絵を習い始めた短い期間を除けば、ずっとこのモチーフをテーマに描いています。木村さんのガラス細工の技術やビジネスを引き継ぐことができませんでしたが、このストローの視覚的な印象を伝えて行けたらいいのではないかと思っています。

デュバリ:山形先生の中でずっとストローが生きてきたというのがとても素晴らしいですね。それから、絵描きの心を惹きつけたのがストロー、というのもユニークだと思います。

山形:ありがとうございます。絵に描いたカップル用ストローは、当然ながら2人で使うものなので、吸口も2つあるわけです。しかしトリコロールカラーの白に刺さったストローは、本来平等に分配されるべきですが、現実の世界は絵のように富める者と貧しい者に分配されていると感じます。

デュバリ:私がこの絵を前にした時、うまく言葉にできない緊張感に包まれていたのですが、その理由がいま分かりました。

山形:はい、ここに刺さるストローは、片方だけが大きく膨らんでいますが、これは社会が必ずしも平等ではないことを示しているわけです。小さい方からは血が滴り落ちているのは、不平等を強いられている側の人々が傷ついていることを意味します。ちなみに、大きい方が膨らんでいるのは、エネルギー資源の独占の象徴です。

デュバリ:確かに私も「この赤い色は血だろうか?」と思っていました。しかし現実では、ストローから血が流れることはありません。では何なんだろう?とずっと考えていました。面白い発想だと思いますが、現実には決して面白くない、憂慮すべきことですね。

山形:平等は目指すべきことですが、しかし世界中を見ても、実現している国はほとんどありません。ただわかっていただきたいのは、決してフランスの国旗を否定する意味ではないということです。これ(自由・平等・博愛)は私たちが目指すべき目標ですが、我々人間は掲げた目標に向かっているのかどうかを問いかけたかったのです。

デュバリ:大丈夫です。芸術家の表現は自由ですし、ストローを受け継がれた話などを聞いても、山形先生の思いや考え方はよく理解できます。

山形:ありがとうございます。それでは話を戻しますが、私は平等の白に刺さるストローのような世界ではなく、もっとみんなが平等な世界を作っていくべきではないかと思い、The Straw(心を結ぶストロー)の印象を交えながら博愛の赤の箇所を描きました。刺さっているストローの左の吸い口は、実は、大気中から地球温暖化の原因である二酸化炭素を吸っているのです。

デュバリ:右の吸い口から出ているのは、木の双葉ですね?

山形:二酸化炭素と水から光合成によって作られる植物なのです。自然を大切にすることを描きました。

デュバリ:ストローの輪の中にあるのは何でしょうか?

山形:右側の輪の中は核兵器廃絶のマークで、左の輪の中は美しい地球です。

デュバリ:なるほど、ここにもThe Strawが大切にしているものが描かれているのですね。色々な要素が同じルールによって1枚の絵の中に収まっているのは、見る人にとって良い経験だと思います。ところで山形先生、左の上に描かれているのは、ASEANのシンボルですよね?なぜ絵の中に描かれているのでしょうか?

山形:実は、平和の象徴としての意味が込められているんです。というのもASEANは対話を重要視していて、年間1500回も対話(会議)を行っています。その上で、お互いを理解し合い、白黒つけずに尊重し合うという姿勢を取っているんですよ。その姿勢が平和にとってとても大事だと私は思っていて、だからいつも平和のシンボルとして描き込むことにしています。

デュバリ:そんな意味合いがあったのですね。私は東南アジアにおけるEUのような取り組みなのかと捉えていました。

山形:他にも平和の象徴がたくさん描かれています。例えばこのフラフープは、憲法九条を示しています。憲法九条は、戦争の放棄と戦力の不所持の約束です。これを守ろう、そして世界にこの考えが広まってほしいと願っています。

デュバリ:私は今、とても感心しています。たった一枚の絵の中に、こんなにたくさんの情報が散りばめられているなんて、1人でフランスで鑑賞していた時には思いもよらないことでした。それが山形先生の説明を聞きながら見ることで、ぱっと視界が広がるようで、とても素晴らしいです。

山形:そう言ってもらえると私も嬉しいです。私の絵を見る人は、最初何が描いてあるかほとんどわからないと言いますね。でも私もそうなることを理解した上で描いているので、別にショックや怒りもありません。見る人によっては何年もかかるかもしれません。でも時間がかかってもわかってもらえるなら、それでいいと考えています。

デュバリ:素晴らしい姿勢だと思います。芸術家は、変にわかりやすくするべきではないですよ。あくまで自分の表現を貫かなくては。最後の質問になりますが、山形先生のテーマとしては今回の作品のようにストローや平和を扱った作品を描き続けると思いますが、創作ジャンルや表現スタイルを変えてみたいと思われることはありますか?

山形:これからも洋画家としてやっていくつもりではあります。ただ、表現方法はよりシンプルになっていくかもしれないですね。

デュバリ:確かにシンプルな方が伝わりやすいですね。それと、山形先生はインスピレーションが鋭敏ですから、現在の自分のスタイルを見つけるまでに紆余曲折されたと思います。

山形:実を言いますと、若い頃はガラス細工師になりたかったんですよ。それがこのストローに出会って、画家となりました。

デュバリ:なんとそうでしたか。運命は面白いですね。実は私も20年前まではまったく別の仕事をやっていたんです。まさか職業が画家になるとは考えもよらなかったです。

山形:そうだったんですね。それにしても、ガラス職人になりたかった自分が、今ではヨーロッパに出品できているのは不思議ですね。とても嬉しいことですが。

デュバリ:ぜひこれからもフランスで先生の絵をご紹介できればと思います。本日はありがとうございました。

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